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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)1132号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人石川浅の上告理由第一点について。

所論は要するに、原判決は民法二一〇条の囲繞地通行権に関する規定を曲解して、上告人の本訴請求を不当に排斥した違法があるというのである。

原審の確定した事実関係によれば、上告人所有の土地は、原判示路地状部分(幅二メートル二八センチ、長さ二〇メートル四五センチ)で公路に通じており、既存建物所有により右土地の利用をするのになんらの支障はない。ただ上告人は、その主張の如き建物を増築する計画をもつており、その増築を実現しようとするのには、右路地状部分は、建築基準法に基き制定された東京都建築安全条例三条所定の所要幅員に欠けるところがあるため、建築基準適合の確認をして貰えない、というのである。

このような事実関係の下で、上告人は民法二一〇条の囲繞地通行権を主張するのであるが、その通行権があるというのは、土地利用についての往来通行に必要、欠くことができないからというのではなくて、その主張の増築をするについて、建築安全条例上、その主張の如き通路を必要とするというに過ぎない。いわば通行権そのものの問題ではないのである。

してみると、本件土地をもつて、民法二一〇条にいわゆる公路に通ぜざるときに当る袋地であるとし、これを前提として、主張のような通行権の確認を求めようとする上告人の本訴請求は、主張自体において失当たるを免れず、従つてこれを排斥した原判決は、結局において正当であるといわざるを得ない。原判決に、たとえ所論の如き判示上のかきんがあるとしても、判決の結果に影響を及ぼさないから、論旨は採用しがたい。

同第二点について。

しかし、原判決理由自体には理由齟齬ありとは認められない。そして上告人主張の通行権がすでに是認できないものである以上、所論隣地宣伝板等に関する原審の事実認定に、たとえ所論のような採証法則の違背があるとしても、判決の結果に影響を及ぼさないことが明らかであるから、論旨は採用し得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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